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ジャカルタ アツい市場のKawaiiファッション

KOOLASTUFFA in Jakarta, Indonesia

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アジア的イスラム的「とんこつ」?

ロサンゼルスから飛行機を乗り継いでたどり着いた久しぶりのアジアは、マニラの空港。その雑踏の「人いきれ」の感じ。東京から到着すれば強く異国を感じるのに、アメリカから到着すれば妙な親しみを覚えるのはなぜなのか。アジア的な雑多さ。東京のそれはもう随分先進国的に洗練されてしまっているが、根っこのところにはなにか共通するものがあるのだろう。
このマニラをアジアの入り口に、またすぐさま乗り換えだ。今回目指すのは、ジャカルタ。
インドネシアの首都・ジャカルタは、近郊を含めた都市圏として2600万を超える人口を抱える大都市だ。これは東京都市圏に次ぐ世界第2位にあたる。インドネシア全体の人口は2億5,000万を超え、これは世界4位。「これから(経済的に)アツい国」と言われたのもかなり昔のように思える。どちらかというと、現にとっくにアツいのだ。

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いわゆる東南アジア的イメージとイスラム教のイメージは、あるいは結びつきにくいかもしれない。しかしこのインドネシアについてしばしばトリビア的に語られることは、この国が世界最大のムスリム人口を抱えるということだ。膨大な人口のおよそ9割がイスラム教徒だから、その総数は中東のどの国よりも多い。そしてまた、この南国でのイスラムのあり方も、少なくとも表面的には中東のそれとずいぶん異なって見える。端的に言って、かなりユルい感じだ。

ジャカルタの街で、若い起業家・経営者たちと話す機会があった。そのうちの一人は、つい最近日本式のラーメン屋をオープンしたとのことだった。実際に店に赴いて食べさせてもらうと、確かに美味しい。日本人の味覚にも十分に合うものと思えばそれもそのはず、厨房から顔を出したのは日本人の職人さんだった。ただ問題は、このスープがとんこつベースだということ。少々心配になりオーナーに尋ねてみると、「まあ大丈夫じゃないの」とのこと。うーん、ユルい。

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「華やかなスカーフ」が意味すること

イスラム教国の世俗化度合とかその質とか、そういったことは国や地域ごとに異なる。とはいえ、ふらりと立ち寄った旅人にとってわかりやすいのは、やはり「(特に女性が)どのようなファッションをしているか」ということだろう。原則的に、イスラム法において女性が肌を見せることは良しとされない。たとえばヨルダンのアンマンにおいて、女性たちの多くは非常に原理原則的な真っ黒の衣服に身を包んでいた。そしてその反動として(というべきかどうか)、裏通りには目のやり場に困るほどの豪華絢爛なランジェリー・ショップが溢れかえっていた。「見えないところ」でめいっぱいファッションを楽しむ、ということなのだろう。

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伝統的な規律はきちんと守りながら、その範囲内でいかに工夫をした自己表現を楽しむか、ということはイスラム圏の女性たちにとって大きなテーマになっている。そうした中で近年注目を浴びているのが、インドネシア女性のファッションだ。特徴的なのは、彼女たちは肌も隠すし、髪もきちんと隠す。そのうえで、その隠すためのスカーフなどの衣服が華やかな色合いであったり、ときにはそこに美しい模様があしらわれているということだ。高級ファッション・ブランドのドルチェ&ガッバーナから、今や世界的展開を見せるファストファッションのユニクロまで、こうしたイスラム教徒の女性向けファッションに力を入れ始めている。

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インドネシアでは、こうした事情と、爆発的な人口増・経済発展にともなう中間層の拡大(つまり、人びとはファッションに興味を持ち、消費をするようになる)という条件が交差する。そのため、世界のファッション市場を語るうえでインドネシアは非常に重要な地となっているのだ。

消費者の側の事情は、街行く人びとを眺めていればなんとなくはわかる。では、ファッションを供給する側の事情はどうなっているのだろうか。ジャカルタ近郊でファッション・ブランドを展開する夫婦の店舗をたずねた。

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青果市場の「カワイイ」ファッション

店舗の場所は、市内中心部から車に乗るとだいたい30分から1時間といったところ(突然激しい交通渋滞がスコールのように発生するこの街にあっては、このようなざっくりした表現になってしまうのだ)。わりと高級そうな住宅街に隣接するようにして、郊外的な中規模程度の市場がある。青果をはじめなんでも揃うといった感じのこの市場には、そこそこに活気もあるし、人々も明るく優しい。併設の食堂があるあたりも市場らしくて、新鮮な食材を使った料理を楽しむことができる。一方で市場らしくない部分というのもあり、それは同じ建物の一角にこのファッション・ブランドの店があるという点だ。さすがに入り口は市場の中ではなく外に面しているが、それにしてもこの立地はどうなのか、とやや首を傾げてしまう。

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表に回って店の入り口を見つけると、そこには突然、半屋台風の「たこ焼き屋」がある。もちろん日本の、あのたこ焼きだ。あとで聞いた話によると、夫婦の親戚だかきょうだいだかがたこ焼き屋をやりたいというので、その場所を貸してあげているのだとか。ファッションブランドの店先のたこ焼き屋。匂いなんかは大丈夫なのだろうか、と心配になるが、もっと心配なのはそのたこ焼き屋がちっとも繁盛していないように見えることだ。こちらも立地に難があるのかもしれない。ちなみに食べさせてもらったところ、生地もタコもかつおぶしさえも、かなり頑張っていた。惜しむらくはソースで、これが東南アジア的に非常に甘ったるい。画竜点睛を欠くとはまさにこのことだ。おたふくソースなんかは、やはり輸入すると高くついてしまうのだろうか。

さて、たこ焼き屋を奥に入るとようやく夫婦の店だ。ブランド名は ”KOOLASTUFFA” (クーラ・スタッファ)という。CoolなStuff(カッチョいいモノ)にひとひねり、といった感じのネーミング。メンズ、レディース、さらにポーチやアクセサリーのような小物まで、広いとは言えない店内にひととおり揃っている。迎えてくれたDedyとAydiwの夫婦はとても人当たりがよくて、揃って笑顔が控えめに素敵な、ふんわりとした雰囲気のふたりだ。奥さんが妊娠中で、ふたりの雰囲気はいっそう幸せそうに温かいのだが、店内に並んでいるKOOLASTUFFAたちにも、どこかその雰囲気が伝染しているように思える。

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KOOLASTUFFA、どういう方向性のブランドなのかと一言で説明するならば、やはり「カワイイ」という言葉がしっくりくる。おなじみの ”Kawaii” である。日本語で「カワイイ」というと、なんとなく「カッコイイ」と相反するもののようにとらえる向きもあるかもしれないが、海外における”Kawaii” に関してそれは全く当てはまらなかったりする。KawaiiからこそCoolであったりするのは、フランスをはじめ各地で経験してきたことだ。

KOOLASTUFFAの、特に小物やアクセサリーのようなグッズには、なんとも特徴的なキャラクターが描かれている。カワイイのだけどどこか奇妙で、ほんの少し影があるような雰囲気の、おかっぱの女の子。なんだか連想されるものがあって聞いてみると、奥さんは「ちびまる子ちゃん」に影響を受けているのだという。なるほど、という感じだけれど、近年の流行アニメなどではなく、どちらかといえばもはやサザエさん的な国民的アニメの領域に達しているちびまる子ちゃんの名を海外で耳にするのは、少し新鮮でもある。そういえば、隣でニコニコしている旦那さんのほうが着ているTシャツに描かれているのは「仮面ライダーBLACK」だったりする。仮面ライダーの影響は、ちょっとどこにも見つけられなかったけれど。

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ブランドを育てる夫婦

でももしかしたら、この場所のメインは1階のショップというより、2階の作業場にあるのではないか、という気がする。旦那さんに案内してもらって2階に上がると、そこには何台ものミシンが並べられ、数人のスタッフが忙しく働いている。小さいながらもなかなかの生産能力を感じさせる作業場だ。奥の方には幼児が遊べるスペースが確保されていて、おそらくはスタッフの誰かの子であろう子どもたちの姿が見える。間もなく生まれてくる夫婦の子どもも、少し大きくなれば、両親の仕事中はここで過ごすことになるのだろう。託児所とまではいかないけれど、幼い子を持つ母親も安心して働けるというこの職場環境は、この規模にしてはかなりしっかりしたものだ。ここを経営していくうえでのふたりの意識が感じられる。

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ふたりはファッション・デザイナーであるのと同時に、起業家であって経営者だ。KOOLASTUFFAができた2008年以来、こつこつと事業を進めてきた。インターネットのインフラが整備されて、eコマースが人々にとって当たり前のものになって以降、まさにインドネシアのファッション業界は群雄割拠の時代にある。KOOLASTUFFAも立派なウェブサイトを構えていて、そこには男性もの・女性ものから文具・クッションまで様々な製品が陳列されている。女性ものの「アクセサリー」のところには、個性的なスカーフがいくつも載せられている。「リアル店舗」はどうにも奇妙な立地にあるけれど、主戦場はむしろこのネットショップのほうにあるのだろう。インターネットあればこそ、野心ある若者が独立独歩でチャレンジしていける、という世界的に見られる状況は、このインドネシアでも例外ではない。

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とはいえ、野心という言葉がまるで的外れに思えるほど、夫婦の雰囲気はやはりどこまでも平和的にほのぼのとしている。日本へのお土産にと何点かの商品を買おうとすると、これも持っていけあれも持っていけ、とオマケと呼ぶのも憚られるほどたくさんの品々をつけてくれる。旦那さんは小雨の降る中、ジャカルタ市内に帰るタクシーを捕まえるところまで手伝ってくれた。やがてタクシーは走り出し、最後まで相手をほっとさせる笑顔を見せてくれた彼の姿が遠くなる。夫婦の温かい雰囲気を思い出しては、強さを増していく雨音に包まれ、妙に安心した気分になる。おみやげに頂いたグッズに描かれた、どこか不思議なおかっぱの女の子をしげしげと眺めながら、アジアに帰ってきたのだな、と思う。

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KOOLASTUFFA

 

退屈ロケット

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